飛鳥部勝則『堕天使拷問刑』

(注意! 長いですよっ!)

実は初アスカベ。大変楽しゅうございました。

ペッカペカのハリボテみたいな登場人物と元気良く狂った村民の方々と「チープ!」と200回連呼したくなるようなオカルト趣味と激甘すぎる思春期の恋愛話をクッチャクチャにしてカーと言う名前の鍋の中でコトコト煮込んで軽快な味付けを加えたらなにやらワクドキの王道娯楽作品になってましたよ。

まずは登場人物。

主人公の少年は若気が至り過ぎてて読んでるこちらがモニョモニョしちゃう実に正しい中学生で、そのまわりに色白美少年(ホモ)とかヒロインのお嬢様(わりとツンデレ)とか天然ボケ少女(舌足らず)とか"Fly Me to The Moon"な感情希薄少女(ちゃんと[包帯]してるぞ!)とか。主人公の敵役は80年代ジャンプから切って貼ったような典型的悪ガキ。そのほか眉目秀麗な医者と眉目秀麗な刑事と眉目秀麗な正体不明の流浪人も登場。いやぁ、ここまでカピカピした人物を取り揃えて、やってることは実にわざとらしい舞台演劇のよう。この作者の天然かどうかはわからないけど、実にうまい具合に新本格できてます。ビバ。

次に元気良く狂った村民の方々。

周囲から隔絶され閉鎖的なまま昔からの因習をかたくなに守り続けたせいで一般的な常識から37万キロほどかけ離れているこの方々のもつ「常識」がなかなかに素敵な空気を生んでます。偉大なる先行作品(『ガラス箱の蟻』とか『第八の日』とかね)を思い出しながらも「いやいやこいつもなかなか良いぞ」とついつい褒めてしまいたくなります。確かに、自分、この手のミステリに弱いんですけどね。そうそう、ガジェットのつるべ打ちがおそらく作者の趣味が十二分に反映されているところなのでしょうね。薄暮のフリーク集会および蟹女のうっちゃりには感動すら覚えました。ビバ。

それからチープなオカルト趣味。

怪しい伝承とか不気味な美術館とかに地獄とか老人ホームとか散々引っ掻き回すけど、本筋は「天使と悪魔」の壮大な戦争なわけですよ。そういうのを見せられてニヘランとしていたらそこに<オススメモダンホラー>なんていうエッセイがわざわざ章をひとつ割いて書かれているわけですよ。ここで良人だったら「趣味に忠実なのはいいけど読者を置いてけぼりにしないでね」と説教のひとつも垂れるとは思いますが、僕は自分さえ楽しめれば他人のことなんかどうでもいいのでむしろ「どんどんやれー」とけしかける勢いで読んでおりました。さすればラストの乱闘シーンで皆々様方も恍惚を感じることができましょう。ビバ。

あと、激甘恋愛話。

自分、その手の恋愛話は大体「うわぁユルユルだぁ」と頭に草履乗っけて軽く受け流す傾向がありますが、上記のとおりどこもかしこもベッタベタですし、それなりの大仕掛けも備わっておりますので、それゆえの王道テイストを楽しむことができましたよ。いやまぁ、シチュエーション的には非常識すぎるんだけどね。重要なのは楽しむことですよ。ビバ。

そんなわけで、高校生のころに戻ったかのような素敵なワクドキ読書体験でしたよ。思わず夜更かしだ!