シャルビューク夫人の肖像(2006.07.19)

これ

「メモランダはまだかなー」と気を抜いていたら不意討ちされた。
謎の霊薬、人糞占い師、血の涙を流しては死に至る奇病の流行ってだけでもジェフリー・フォード節が炸裂してるのに、屏風の向こうで夫人が語る過去の話とその声だけで肖像画を描く話だなんて!

優先順位は最高ランクです。


追記:
妙な対抗心を刺激されたので、ジェフリー・フォードの受賞歴を列挙。

  • GPI
    • Exo-Skeleton Town

読みました。
世の中には<空気を変えてしまう>小説ってのが極稀にあって、これはその稀有な一例。最初はまだ僕らにも馴染みある匂いだったのに、いつの間にか<あちら側の匂い>に絡めとられてしまい、しかもその<匂い>には中毒性があったりするわけです。
この本のイヤらしいところは、その<匂い>は主に夫人の独白パートで発せられるにも関わらず、主人公のパートでもその<匂い>が消えずに、むしろ本全体を覆ってしまうところにあります。従って「ここは現実」「ここは妄想」だなんて単純な区別ができようはずもありません。
先の『白い果実』ではグロテスクな異世界を紹介するに留めていたはずのフォードが、今度は僕たちのいるこの平和な世界から<あちら側>へと手招きしているとしたら。絵描きなんていう僕とは明らかに次元の違う、しかも18世紀末のアメリカだなんていう非接触な世界とはいえ、やっぱりそれは恐ろしい。読んでしまった僕なんかはただ呆然と「はうら〜ふうら〜ほいね〜」と歌うほかありません。