佐藤亜紀『ミノタウロス』

第1章の歌うようなリズミカルな文章がすごい。背景と一緒に「ぼく」の顔を描いていく手際がすごい。見事なまでに研ぎ澄まされた機能的な文章で、つまりもうそれだけで美しい。第2章以降はもっとすごい。第1章で華麗に鳴らした旋律をベースに、変調してリフレインして次第に音を重ねて、だけど全体像は1章で語ったものを揺るがせることなく。しっかりと足場を固めたあとの後半がすごい。薄く描かれた下地に紐付けられた物語が言葉と文章を微妙に揺らしながら、的確な動線を描いているのがすごい。ラストはそっくり返った。どう形容すればいいのか、まずは「なんと贅沢な」と思った。

ロード・トゥ・パーディション』のOPだけ繰り返し観て「この自転車がね、この労働者がね、この流れがね、えへへへ」だなんて一人で悦に入ったりしたこともあったけど、万事そんな調子で、いやもう眼福眼福。